The Art from Hokkaido by SHIRAKAWA Hiromichi

Japanese artist's gallery and diary

香港・台湾と日本人の私

 なんだ…まだ懲りずにやっているのか。最近報道されないと思っていたらまだ彼らは頑張っているようだ。逃亡犯条例に対する香港でのデモは各地に広がりを見せているという。中には絶望し若者が自殺したとも報じられている。対してこの騒動に暴力には賛成できないというまるで他人事のような現地の世論もあるらしい。このままでは皮肉にもデモの中心者は捕まって中国本土に引き渡されてしまうに違いない。この状況に台湾は警戒を強めているに違いないと想像するが、日本人の私から見ればいわゆる香港人は行動を起こすのも気付くのも遅過ぎたと思う。あと自分達を過信しすぎた。
 香港と台湾両者に共通して言えるのが、経済的な成功が今現在彼らの存在の支えになっているように見える。しかしこれからは、他のアジア諸国の目覚ましい経済の発展に伴って今まで通りにはいかなくなるだろう。両国の存在価値は揺らぐかもしれない。そんな事態に直面した時、果たして彼らに存在するべき価値や意義を見い出すことができるのだろうか。以前にも言ったと思うが政治・経済や産業・科学というものはその国の強力なアイデンティティにはなれない。それは時代とともにあるものは変わり、消えて無くなる案外希薄な存在だ。文化、特に芸術なるものこそが時を超えて受け継がれ、その国の血と肉になり強力なアイデンティティと成り得ることができる。そこにはその国のアイデンティティが滲み出てくる。彼らにそういったものが存在するだろうか。まだ確立できていないように見える。当然だ。それは50年や100年ぐらいで出来る生易しいものではない。結局彼らは幸運にも自由を味わえた中国人にすぎない。言語は基本的に中国語。文化、芸術のルーツを辿れば必ず中国のものに行き着く。「私は香港人だ」というのも「私はアメリカ人ではない。ニューヨーカーだ」的な、なんとも薄っぺらい感じに聞こえる。何十万、何百万の人がデモしようが騒ごうが中国当局には痛くも痒くもない。香港の中でギャーギャー騒いだところでなんの意味もない。ゆっくり北京で高みの見物だ。かえって好都合かもしれない。騒ぎが大きくなればそれを理由に人民軍が突っ込んで行けばいい。国際世論なんて気にしない。イタリヤやアフリカ、ロシア、北朝鮮、韓国etc.そして一帯一路など国外世論を味方につける根回しは着々と進められている。中国からすれば香港や台湾独立など決して許されないことだろう。日本としてはこの東アジアで唯一の良き理解者である台湾を失うということは大きな損失になるが、一つの中国というのが彼らの譲れないテーマだからだ。中国の極端な衰退がなければ、経済以外の強いアイデンティティーを見い出せない彼らは今世紀中に中国に吸収される様な気がする。
 今後私達は彼らの二の舞いにならないよう、平和ボケと経済ボケにならないよう気をつけないといけない。経済、国防、エネルギーなど物理的で現実的な安全保障をしっかり備えておくことが重要であるのと同時に、文化・芸術というものが国家の安全保障にとって案外大事なものと認識すべきだと思う。香港と台湾を見ながら素人の私がふと考えたことだが、例えば我々の先祖が中国からきた漢字をそのまま使わずに独自の文字文化を作り上げたのは単なる日本人を取り巻く環境による日本人特有の美的感性・気質だけでなく、現在よりも圧倒的な影響力を持つ巨大国家として君臨していた中国に飲み込まれないための安全保障の一つだったのではないか。それにもしかするとすでに昔の日本人は現在の情勢を予想しながら戦略的な意思を持って練り上げたのではなかったか…と思わず想像してしまう。
 日本人は長い時間を掛けて様々な文化の影響を受けながらも、独自の言語や世界に唯一無二の文化・芸術を育くみ進化させてきた。それが日本人がこの世に確固たる存在価値を手にしている。我々の社会には様々な問題はあれど平和の下、概して何処かの国に従属されず、言論の自由とか表現の自由など、自由というもが保証され中国のように強力に監視・管理されずに生活ができる。普段当たり前すぎて空気か水のようにしか思えないがそれは今の世の中、とても幸福なことだし自分はこの国に生まれてよかったと思える。今更ながら昔の日本人達の努力に想いを馳せながら感謝するとともに、そこには文化・芸術というものが大きく貢献してきたはずなんだとあの二つの国を眺めながら改めて感じている。
 

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