The Art from Hokkaido by SHIRAKAWA Hiromichi

Japanese artist's gallery and diary

G20と日本の三つの宝

 さぞかし現場は慌ただしかったであろう、G20の二日間、首脳会議前の会談もあったので合計三日間の日程が終了した。G20は日本で今回初めて開催されたのだが、米中対立の最中、二カ国の首脳が顔をあわせるという事で国際的にも注目が集まったらしい。特に株式市場や投資家などは彼らの発言や会談後に出てくる情報に耳を澄ませていたに違いない。米中だけではない。米とイランの対立によって中東情勢の軍事的緊張と先の不透明感が続く中、あのサウジアラビアの疑惑の王子もやって来た。そしてこれもまた米と対立中のトルコのエルドアンプーチンも来た。プーチンは日本との領土問題があるし話題には事欠かなかった。それだけにこの三日間、TVで朝から様々なタイミングで中継の映像が入って来るほどだった。
 その肝心の米中首脳会談では『決裂』という最悪の結末には至らなかったが、今回の会談で全てが『解決』という事にはならなかった。威勢がよかった割には、なんだこんなもんかと、収まるところに収まったというか先延ばしにしたというか…。でも見通しが明るくなったわけではない。問題はこれからも続く。今回は経済のことばかりで中国の人権とか南シナ海の領有権問題がほとんど出てこなかったのは残念なことだ。このままウヤムヤになってしまわないか。まぁ二日間という短い時間では全て取り上げるのは無理な話というものなんだろうが…。
 当初は首脳宣言で合意できるのかどうかとメディアで識者たちが懐疑的に言っていたぐらいだから、最終的にはなんとか取りまとめることができたし開催国議長を務めた日本としては、各国様々な思惑がある中でよくやれた方ではないか。
 様々な中継の映像が入って来る中、私が気になったのは首脳会議一日目のことだった。金曜の夜、前日からの会談と一日目の会議を解説・分析する番組と同時にプロ野球のリーグ戦が再開したのでファイターズ戦もチャンネルを切り替えたりして見ながらPCでもネットの情報をチェックしていた。するとYahoo!ニュース動画で会議後の首脳と夫人達のための撮影会と歓迎行事の生中継が始まったので何気なく見ていると、サプライズ演出ということで3組の日本人アーティストによるパフォーマンスが始まった。最初は野村萬斎氏による五穀豊穣の舞、二人目はピアニスト辻井伸行氏の演奏、三人目はオペラ歌手中丸三千繪さんの歌だった。野村氏は日本の古典芸能…うん、ちょっと外国人には尺が長かったかもしれないけど…まぁわかる。辻井氏は世界でも稀有な才能の持ち主…うん、わかる。中丸さんは…うん?…どうして出てきた?正直彼女がイタリアの歌を高らかに歌い始めてさらに違和感を感じた。でも解説によれば彼女は世界を舞台に活躍しているオペラ歌手で、マリア・カラス・コンクールでイタリア人以外で初めて優勝をしたそうだ。そういうことか。文化の壁を乗り越えて必死に頑張ってきた日本人ということか。納得。しかしこの三組の中で、いやG20の中で一番印象に残ったのはトランプではなく、習近平でもプーチンでもない、辻井伸行氏のラ・カンパネラの演奏だった。客席にいたG20の首脳やその夫人達もじぃーっと見入るようなすごい演奏だった。
 正直彼を評価する時どうしても「目が見えないのに」すごいな…ということになってしまう。顔を左右に振りながら演奏する彼を見て、実際他人よりハンデがある分、物凄いトレーニングを積んでここまで辿り着いたんだろうと想像させる。自分はその涙ぐましい膨大な努力に感動しているのか、純粋に彼の奏でる音楽に感動しているのか…。自分でもわからなくなる。辻井氏はプロの演奏家だから純粋に音楽を評価してほしいに決まっている。私は専門家ではないのでココがああだとかこうだとか語れないのがすごくもどかしい。ラ・カンパネラはリストの少し悲しげで短い小品であるが彼が2曲演奏したうち、もう一方の曲が記憶に残らないほどだった。決して彼に対する感傷的なものではなくあの演奏には確かに何か凄味を感じた…と自分の感性を信じたい。と思う。

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