2013年、一台のコンセプトデザインが発表された。
農業用トラクター『YT01』である。
初めて見た時はちょっと衝撃だった。
確か映像で記憶しているので
おそらくテレ東の経済ニュースかNHKだったと思う…。
鮮烈な真っ赤なボディーと斬新な姿から
〝 もしかして 〟と思ったら
やっぱりそれは奥山氏のデザインだった。
〝 フェラーリ 〟のデザインをやったコトは勿論すごいのだが
個人的には〝 ヤンマーのプロダクトデザイン 〟
コチラも外せない〝 功績 〟だと思っている。
所謂普通の〝 クルマ 〟ではなく
この〝 農機具 〟というモノにデザインのメスを入れた。
そこに〝 価値 〟がある。
〝 農機具 〟というと「こいうモノ」「こういうカタチをしたモノ」といった
定形のイメージがありそういうモノだといつの間に決め付け誰も疑う事もない。
使う人の使い勝手やコスパが優先され
そこにはデザインの〝 デ 〟の字も感じさせないものばかりだが
(それがデザイン本来の在り方だ…という考えもある)
別にそんなの無くても誰も困ることがなく
それが当たり前に放置されてしまった分野だった。
それはどこか日本人が日々刻々と変化する〝 経済 〟というモノには
一喜一憂し注目するのとは違って
〝 農業 〟とか〝 酪農・畜産業 〟はては〝 日本の食料自給率 〟など
それらの危機的状況というものを何ら実感できず
無関心になっているのと無縁でないような気がする。
「そういえば農業でこういう試みって無かったよな… 」
あの人はそういった分野に我々の〝 目 〟を向けさせ
〝 農・畜産業 〟に対する我々の問題意識の〝 低さ 〟を
直接的ではないが暗に気付かせた。
私はそういうところにも大きな〝 価値や意義 〟があると思う。
奥山氏自身、山形県の出身で祖父母の方が農業をやっていたらしく
子供の頃からその目で農業を見つめてきた筈であり
その大変さをよく理解し農業に対する思いも
普通のデザイナーより人一倍あるのは容易に想像できる。
今〝 クルマ 〟には〝 電動化 〟〝 自動化 〟という
100年に一度と言われる大転換期が訪れているが
〝 農機具 〟の世界も例外ではない。
〝 電動化 〟は勿論、農業のなり手不足もあって
GPSを使いながらの〝 自動化 〟〝 ロボット化 〟など
これから高度な技術が求められて行くのが予想される。
だからといって〝 農機具 〟が普通に手に入れられないような
バカ高い超高額な商品では経営は成り立たない。
だから社外取締役としてヤンマーの経営にも携わる(携わっていた)奥山氏は
一見するとただ〝 カッコいいモノ 〟作ってるだけに見えてしまうのだが
ブランドデザインを高めて世の中の人達に認識させるのは勿論
これからの経営・生産の効率化をどう進めてどう備えて
それらを使う人達に使いやすいモノを提供するというシステムの構築など
〝 外と内 〟両方に目を配りながら大きな責任と命題に向き合っていたはずだ。
〝 デザイン活動 〟の一方で我々の目の見えない所での活動こそ
本当は忘れてはいけないのかもしれない。