今年の一月、
久しぶりに小樽へ撮影に出掛けた。
雪が厚く積もる街の中を
いつものように出来るだけ観光客を避け
観光客が行かないような場所を選びながら歩き回り
被写体を探してはシャッターを切りまくった。
そんな時だった。
何となく一枚の貼り紙に目が行った。
花園の花銀通りと公園通りの交わるすぐ近く
〝 アラ井時計店 〟の窓の前に私は足を止めていた。
「 あぁ…そうだ………。」
頭に血が一気に逆流するように記憶が蘇った。
かなり以前にこの店がなくなるのは他の人のブログか何かで知っていた。
一度寄ってみようかなとは思っていたが
この〝 コロナ禍 〟で小樽に来るのもままならずその機会を失っていた。
だから店はもう既にたたんでいるものかと思っていたのだが
ちょうど明日、107年の歴史に幕を下すその日を迎えるという。
まさにそんな日に訪れていたのだ。
それも何かの縁だと思い
いつか取り替えようとカバンにしまっていた
草臥れたバンドの腕時計を取り出し
「御免ください」と私はそぉっと店のドアを開けてみた。
この高齢のご夫婦が店を切り盛りしていたのか…。
もし後継がいなければ店を閉じるのも仕方ないよな…。
と、心の中で納得していた。
ご主人が作業の途中
店の片付けを始めていた奥さんと少しだけ言葉を交わした。
商売を始めてから107年の歴史があると直接その口から聞いた。
思わず「凄いですね」とか「残念だな…」などと
それ以上詳しい事情を聞くのも失礼かと思い
もっともらしい事しか言えなかった。
明日まで商売をしてその後も店は開けてるらしいが
あとは片付けだけになると言っていた。
新しいバンドの交換と軸の部品が錆ていたので
そこは無料で交換してあげるとご主人。
店をたたむので今回いくらか割引きにしてくれるという。
腕時計が久しぶりに綺麗に蘇った。
お金を払い二人にお礼を言って私は店を後にした。
おそらく私は107年続いたこの店の
最後から数えて何番目かの客になるんだろう…。
こうしている間にも
この店に限らず小樽ではこういう事が
他のいろんな場所で起こっているに違いない…。
そんなこと考えながら
再びカメラを抱え白い町の中へ消えていった。