The Art from Hokkaido by SHIRAKAWA Hiromichi

Japanese artist's gallery and diary

札幌交響楽団がドイツ・グラモフォンからCDを発売!

 

先週アップできれば良かったかもしれないが

 

7月7日は、なんの日?と聞かれて

〝 七夕まつり 〟………と、きっと普通は答える。

 

でも、今年に限ってはそうじゃなかった…。

 

〝 札幌交響楽団 〟が新しいCDを発売した日…だったのだ。

なぁ~んだ……と思うだろうが

ただのCDじゃない。

日本に数多くある〝 いち 地方オーケストラ〟が

なんと、

あのクラシック音楽の老舗レーベル〝 ドイツ・グラモフォン 〟から

初めて新譜をリリースしたのである。

 

     

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1982 武満徹世界初演曲集

岩城宏之(指揮)

札幌交響楽団

泉浩(アルト・フルート)、篠崎史子(ハープ)

収録:1982年6月27日  札幌市民会館

品番:UCCG-45008/9

 

 

カラヤンだのベームだのクライヴァーだのバーンスタインだのベルリンフィルだの…

数々の名盤録音を遺して

多くのクラシックファンに親しまれている

あの名門レーベルの黄色のバッジを付けて出してくるのである。

ちゃんと調べたわけじゃないので確実なことは言えないが

日本の〝 地方オーケストラ 〟であそこから出した例は

殆どないんじゃないか?あっても数例だろう。

N響でさえそんなに出してはいないはずだ。

それだけに大きな価値のあるコト…だと思う。

今年の初め頃だろうかこのリリースの情報をネットで見た時

思わず『おぉ、』と唸った。

 

 

大袈裟かもしれないが

これはある意味

楽団にとってはもちろん、

我々札幌市民にとって、

札幌の文化にとって、

〝 歴史的な日 〟…と言えるかもしれない。

例えて言うならば

日本人で札幌出身のベテランプロ野球選手が

満を辞してメジャーリーグの舞台に立ち、

その真価を問うようなモノである。

札幌というローカルの文化力が世界に試されるのを意味する。

 

 

以前から日本の地方の財政状況が厳しい中で

地方オーケストラの経営が大変だという話をテレビやニュースなどで聞いていたが

そこに〝 コロナ 〟が直撃した。

彼らの苦しい状況は容易に想像できる。

平時であれば今の時代日本では毎年のように欧米から

本場のオーケストラが来日し本物のクラシック音楽を楽しめる時代だ。

どうしても地方オーケストラを格下に見てしまい、

彼らの演奏から足を遠避けてしまう。正直私も含めて…。

だからこそ地方オーケストラが生き残っていくためには

何かしらの〝 価値 〟がなければならない。

実際にみんなに見える〝 カタチ 〟で。

素人でもわかる〝 カタチ 〟で…。

と、考える時に老舗レーベルからのリリースというのは

その価値と影響力において一役買うはずだ。

なんだか『コンサート行ってみようかなぁ~』なんて気にもなる。

さらに興味深いことは

この録音は〝 ドイツ・グラモフォン 〟が企画し録音したモノではなく

1982年当時FM北海道札幌市民会館で行われたコンサートを

録音したものが音源となっている。

約40年も前の地方のFM局が録音したものが

老舗音楽レーベルのCDの音源として聴くに堪えうるクオリティだという…こと?

日本の当時の録音技術がすでに優秀だったということを証明した?

のだろうか。だって40年も前だよ…地方の。

これは驚きに値するのではないか。

 

 

店に立ち寄ると既に売り切れで入荷待ちになっていた。

別の店に行って手に入れることができた。

私と同じような思いの人達が他にもいるんだな…と。

今どきアイドルじゃあるまいし、

クラシックのCDが売り切れで入荷待ちなんて聞いたコトがない。

密かにみんな注目しているのか?それはとても良いことだ…。

 

 

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ここ20数年の間に札幌で、あるいは北海道で

おらが街のサッカー、野球、バスケットなどのプロチームがようやく誕生し

文化を楽しむ幅が大きく拡がった。

札幌交響楽団は地方オーケストラとはいえ

今年創立60周年を迎える老舗のプロの楽団だ。

札幌の文化においてスポーツの分野よりもいち早く

文化を作り上げようと頑張ってきたおらが街のベテラン的存在である。

経営がぁぁ……などと言われながら海外公演も積極的に行い

地道に頑張ってきた努力の一つの結晶でもある。

老舗レーベルからのリリースということで

おそらく少なからず海外の店舗でも並ぶ機会はあるはずだ。

世界で日本のオーケストラの評価や価値を

上げていくキッカケになって欲しいと思う。

 

 

ヒトが様々な文化を享受できるというのは

その国やその地域の平和や豊かさの証明でもある。

地方にいながらスポーツや芸術を楽しむことができる…これがなんと幸福なことか。

今のシリアやミャンマーにそんな物理的で精神的な余裕など全くないはずだ。

でもこの国では当たり前すぎて

日本人にはその有り難みをあまり理解も意識もできていないような気がする。

週末にこれでも聴きながら

その有り難みをじっくり噛み締めたいと思うし

これからはもうちょっと札響を応援していこうかなという気になった。

 

 

この記事を読んでいるアナタの地元にも

頑張って活動を続けているオーケストラがあるはずです。

もうちょっと関心を寄せてみてはいかが……。

 

 

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追記 

▪️1995年、シカゴ交響楽団が来日し渋谷のオーチャードホールでコンサートを開催した。指揮はダニエル・バレンボイム。メインの曲目がR・シュトラウスの『英雄の生涯』で、他に武満徹シカゴ交響楽団のために作った曲があって、確かその演奏の終了後だったと思う。拍手の中で一人の小柄な男が立ち上がったのが遠目から見えた。「あぁ…」まさに武満徹その人だった。ホールの中で季節外れのニット帽を被っていたので違和感を覚えたが、もしかしたら…という私の悪い予想は翌年の1996年、現実のコトとなってしまう。それが武満徹を実際に見ることが出来た最初で最期の機会だった。

▪️武満徹岩城宏之、札幌交響楽団 …… この三つの要素をつなげるものの一つに『黒澤明』の名前が挙げられる。映画『乱』の音楽を担当したのが彼らである。随分昔に映画を見た時に最後のクレジットを眺めていたら〝 札幌交響楽団 〟の文字が目に入ってきた。ものすごく意外だった。なんでN響とかでなく札響なんだろう?という疑問と同時に何か誇らしい想いが湧き上がってきたのを記憶している。